秀香穂里&山田ユギ(徳間書店キャラ文庫)
オススメ作品挑戦への道、第二弾です。"誓約のうつり香"と同じようにこちらも拍手メッセージなどで沢山のオススメを頂いた作品です。読んだ順番としてのイメージもあるのでしょうが、"誓約のうつり香"と全く違う作風で楽しめました。どちらもそれぞれの味があって、読みどころも楽しみ方も違う作品なので、良い所取りで読むといいでしょうね。
主人公は厚生労働省管轄の麻薬取締部、いわゆるマトリと呼ばれるメディアの表舞台に立つことは無い場で麻薬断絶に奔走する藍原徹(受)です。彼は母親が麻薬中毒であったため幼い頃から弟を庇い親からの暴力を一身に受けてきた過去を持っています。しかし、弟が突然の失踪してしまう。長い年数を経てやっと再会できた弟は麻薬中毒でありそのために脳死状態になってしまっていた。弟を死に追いやった新種の薬物「ダブルエス」を憎み追う過程で藍原は新堂という喫茶店のマスターと出会う事になる。追い詰められた生活の中で唯一ゆっくりと出来る場所になっていた喫茶店「水屋」で新堂と会う内に藍原は新堂自身に惹かれていくようになる。
わかりやすいと言えばわかりやすい作品です。ラストの締め方はちょっと甘いかなとも思いますが、そもそもどんな終わり方にせよ二人に楽な道が残される事はないとだけはわかりますので、まぁ甘い終わり方もありかな、という感じ。最終的な結末よりも辿り付くまでの展開を楽しむ作品かもしれません。ダブルエスという薬物を中心にそれを取り巻く人間関係がこの作品に緊張感を与えてくれますから。藍原と新堂を結びつけたのは確かに麻薬ではありますが、お互いが惹かれた理由そのものは育った環境の酷似性です。新堂も藍原と同じく麻薬中毒だった母親のせいで凄惨な思春期を過ごしてますが、二人の決定的な違いはそんな過去を経ても藍原は麻薬を取り締まる側になり、新堂はそれを売り捌く側になったという事。この違いは「麻薬」というものに対する見方そのものです。
実際はこの二人の間にもう一人の麻薬捜査官である浅見という男が介在しており、今回はこの浅見が悪役を一手に引き受けています。読んでみればわかりますが、この浅見は確かにどうしようもない悪党でしかないですけど、新堂についてはどうしても憎みきれない気持ちにさせられます。それは冷酷であり残酷な一面を見せながらも、同時に過去に対する負い目や傷付いた心を見せるからでしょう。浅見にはそんな過去もありませんし、薬に手を染めた過程・理由にも同情の予知もないのですが、新堂はそうではない。
ストーリーそのものは藍原視点で進むのですが、彼の心情がそのまま視点にも反映されているので新堂に対する見方はどうしても甘くなってしまうのかも。とは言え、その藍原自身の感情もまたこの作品のメインの一つなので、仕事としての判断と愛情としての判断に差がありそうでないという微妙な部分はお楽しみの一部といったところ。揺れる・・・と言ってしまうとセンチメンタル過ぎるかもしれませんが、繊細でありながら太く頑丈な男としての矜持を各キャラがそれぞれ貫いており読んでいて潔さを感じました。動揺という言葉では収まりきれない衝撃が藍原を何度も襲いますが、それでも投げ槍になれない彼自身が悲しくもあり、同時に頼もしくもある。
新堂はそんな藍原に触れ、最終的にバイヤーという職を捨てる事になりますが、それでもまだまだ二人が安心して生きていけることにはならないでしょうね。新堂に至っては凄腕のバイヤーとして生きていただけに尚更。きっとこの先も表立って二人が出掛ける事は難しいでしょうし、人の目や身の危険と常に隣合わせで生きていくことになるのは想像に難くありません。それでも、ようやく過去のしがらみから抜け出そうとしている新堂と、同じ痛みを知る藍原が24時間365日のほんの少しの時間だけでも安らげる事が出来たらいいと思う。

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kotonone::詞の音(05/11/13)

日々乱読(05/11/13)
>>成田智さん
こんにちは!
秀先生の作品は全て網羅していたわけではなかったので、感想に対して色々とコメントいただけて今とても嬉しく思っています?。
>「虜-とりこ-」は「誓約ー」とは全然雰囲気が違いますよね。
そうですね。全くと言っていいほどカラーが違う。
なので、古くからのファンの方もそうでない方も、戸惑ってしまったり様々な意見を持ってしまうのかもしれません。
>己の責務を果たそうとする姿は痛々しいにも関わらず?
ですよね?!!
色気あります。確かに。
涙の数だけ強くなれるのは男女共に同じなのでしょうね。
歌の世界だけの話じゃないのですよね、きっと。
また憎しみという感情が絡むと余計に「おおっ」と思います。
>二人がお互いに心を預けられる存在になってとても嬉しかったです
私もですよ**
藍原が薬物を憎む気持ちが仕事への原動力である限り、彼がマトリである事実は生涯かわらないでしょう。
しかし、新堂は動機そのものが私怨めいたものであったので、まだ今回のように仕事を辞めるといった手段が取れたのだと思いますので、ある意味二人にはラッキーだったのかもしれないです。
新堂がまだ大人になりきれていなかったという点も大きいと思うけど。
ハードでありながらもどこかイノセントなストーリーだったと思います。
おもしろい作品に出会えてよかったです。
>>TANTOさん
こんばんは!
こちらはTANTOさんのお眼鏡にかなった作品だったのですね?。
まぁ・・・確かにSMとは何の接点もないお話ですから、私も理解という点ではとてもしやすかったデス。
こんにちは!
「虜-とりこ-」は「誓約ー」とは全然雰囲気が違いますよね。
藍原の不器用な生き方は見ていてもどかしくなるくらいですが
己の信念を貫こうとするその姿は言葉以上に多くを語ってくれていると思います。
信じていたもの全てに裏切られ、生きていく理由さえ失なっても
それでも己の責務を果たそうとする姿は痛々しいにも関わらず壮絶な色気を感じます。
当然といえば当然ながら新堂と藍原のスタンスの違いが
そのまま正確に反映されているところも面白いと思います。
結果的に二人がお互いに心を預けられる存在になってとても嬉しかったです。
HACCAさんの感想を読んで,再読したくなりました。