五百香ノエル&松本花(新書館ディアプラス文庫)
シリーズ番外編。個人的にもシリーズにおいて一番好きなのがこの学生編になります。他の方のレビューでも言われている事ですが、間違ってもこの学生編から読んではいけません。好き好きでしょうけど、間違いなくおもしろさ・楽しさ・悶え具合が半減どころか消滅してしまいますから。学生編を書かないかと五百香先生に言ってくれた編集様には感謝の気持ちを熨し付きで贈りたいです。
相も変わらず素敵な二人のイラストを描いて下さっている松本花先生ですが、カバーイラストとしては今作がナンバーワンです!新刊帯付で購入した方も必ず帯の下を確認しましょう。学生時代の険悪な関係の中、酒豪天音とそれを嬉しそうに見る浮名のスナップショットが素晴らしいです。これはこの時期の二人を知れば知るほど嬉しいショットなんですよねぇ。
進学校に通い、容姿も端麗なため女の子からの誘いも途切れることのなかった樋尻浮名(ひじりうきな・攻)は何でもソツなくこなす事のできる器用な人間だった。趣味でしか書いていなかった作品も評判が良くただただ楽しいだけだった執筆活動。そんな浮名の価値観も全てひっくり返す出会いが訪れる。知識と技巧に長け、更に若さが表す勢いまでも持ちえていた他校の生徒が書いた短編小説。それを読んだ浮名は衝撃と賞賛と、そして羨望を持って書き手に傾倒していく。書き手の名は宮古天音(みやこあまね・受)。名前しか知ることが出来なかった浮名はついに本人を自分の目で見ることが叶うようになったが、当の天音はその才能を切り売りするかのような浮名には理解の出来ない愚考を重ねていた。
とりあえず学生編なので色気のいの字も出て来ません。でも全体的に本編よりもずっと濃い情で満たされています。今回は全て浮名視点で進みます。その点も本編とは違うので新鮮さもバッチリです。しかし、それ以上に二人の遣り取りが素晴らしい。もう快感モノです。うっとりです。この二人は学生の頃からこんな想いを味わっていたのかと思うと・・・それだけで脳が沸騰しそうな勢いで悶えます。性描写がないだけに一層。
まさに思春期を感じている二人の様から目が離せませんでした。反抗期とは異なり、青年期への変化とそれに付随する我が身への懊悩がリアルでございました。特に天音に至っては受験という立場とその才能への憤懣たるやといった風で、これはもう彼の性分なのかもしれない。その流れは脈々と作家編まで受け継がれています。浮名の方はあくまで彼視点で物語が進むためか、わかり易い反面、第三者からの評がまとまりすぎていて天音ほどのミステリアスさはありません。ま、それも浮名という人物そのものという気もしますけど。
タイトル作品である「青い方程式」では、浮名と天音の二人の出会いとその事件を幼さを見せながら時に現実的に楽しめます。この時期特有のルールを媒介に特異な物事の考え方や捉え方が存在しています。大人になってしまえば簡単に判断のつく善悪でさえもわからなかったり、気付けないでいる姿はまんま思春期という言葉がピッタリです。ストレートに読むと浮名の方が大人である事は間違いありません。でも、それを受け止めきれずにいる天音の方がより魅力的に感じてしまうのは主人公の浮名を始めとし読んでいる私自身もそうでした。アンバランスさが魅せる強烈な存在感とでも言うのでしょうか・・・基本的にないものねだりをしてしまう人間は多いからこそ、当時の天音は才能込で良くも悪くも多くの人を惹きつけてやまなかったのでしょう。
この出会いの時点で天音は間違いなく浮名へ憧れを抱いているんです。でも、それは天音視点では書かれていないため彼が浮名へ対して何を思い、どこを欲したのかまで詳細に知る事は出来ません。でも、私はそこが一番知りたい!浮名が天音という人間の存在を知った時の衝撃が天音にも絶対にはる筈なのです。これは私の願望でもありますが、そのエピソードは必ずや存在すると思う。断言してもいいです。そうでなければ、ラストの天音のあのセリフは存在し得ないのだから。天音派の私はぜひ浮名へ焦がれる天音の姿が見たいです。
書き下ろしの「緋い狂想曲」は、更に一歩進んだ浮名の想いを知る事が出来ます。この作品で二人の間に女という性を持つ第三者が介入します。そしてそれは浮名と同じ種類の人間だった。当然ながら人間が全く同じという事はありえないので最終的には二人は別人であるという結末にはなりますが、それでも天音へ対する見解は同じものだった。この時点では浮名自身もまだ天音へのこだわりの色合いをそれほど濃くはしていませんが、この女性との出会いがこだわりを執着へと変えたことは事実でしょう。天音自身がこの女性との未来を欲しただけに。
会すれば死が近いと言われているドッペルゲンガーに似てるかもしれません。死んだのは、天音の恋でしたが・・・そう考えると、あまりにも似た存在を目の当たりにすると、畏れるより近しく感じてしまうものなのかもしれません。ドッペルゲンガーと言うよりはバイロケーション的な二人と表すとわかりやすいかも。勿論、現存する二人は別個の人間でありそういう超常現象とは違いますけど、雰囲気としては近いものがあるかな、と思ってみたり。
ちなみに酔っ払い天音が浮名にキスをしかけたりもします。本当に酔った天音の二重人格ぶりには驚きですが、それでも浮名に対しては本心を見せない。いや・・・本当はこの酔っている間の言葉や態度が願望であるんですけど、悲しいかな浮名にはそれが「からかい」にしか受け止めてもらえない。この時期の二人は本当に本当にすれ違いばかりです・・・さすがの浮名もこの時期には余裕がないため全く違う事を思うのです。焦れったくて仕方ないんですが、これがあるから、大人になた現在の天音への独占欲はかなり強いんですけどね・・・作家編だけ見るとその方が新密度(ラブ度?)が強くて私的には喜ばしいんですけど、ちょっと切ないですね。まぁ作家編での二人の執着度合いをわかっているから、それも学生編の繊細さやきわどさを楽しむ最大のスパイスです。

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