雪代鞠絵&一馬友巳(雄飛アイノベルズ)
とりあえずタイトルで予約即決。アイノベルズからという事もあり、きっとそれなりに重いお話なんだろうなぁと思いつつも楽しみにしていた作品です。既に発売から結構日数が経過しているので現在ではどうかわかりませんが、この作品を含めリーフノベルズと合同で「June Bride Fair」が開催されており「花嫁カタログ」という小冊子も無事入手できました。
でもこのフェアはオフィシャルで確認する限り、私の住む鹿児島では一店もフェア開催がないんですよ(笑)こういう事って結構よくあることなので小冊子や非売品モノの入手はほとんど始めから気にしない事にしているのですが、この作品の小冊子はどうしても欲しかったので、オンラインショップで送料に涙しながら予約をしたのでした(あ、私はリーフFCには今のところ入っていないのです)。やっぱり地方在住はツライな。今はネットがあるからまだマシなのも事実ではありますが・・・ま、無事に入手できたから良かった。
母親を喪い一人きりで生活していた水晶(あきら・受)は長期間音沙汰のなかった実の父親から帰宅を命じられる。有栖川家という日本有数の大企業を統括する有栖川グループの末端分家である藤井家が水晶の実家だったが、幼い頃に妾であった母親が水晶と共に出て行った家でもあった。理由は不明ではあったが離れ離れになっていた姉の珠生と会えるという事もあり、水晶は父親の命に従い上京する。しかし、そこで水晶を待ち受けていたのは珠生の身代わりとなり、冷酷で死神と噂される有栖川家の次期当主・有栖川誉(攻)の花嫁になるという異常事態だった。
いや〜おもしろかったです。権力者にその身を翻弄される身代わりの花嫁、というものは定番ではありますが王道の良さがあります。後書きで雪代先生が書かれていますが「好きなものを詰め込んだ」という言葉がよくわかる内容と展開でした。やっぱりはずさない王道モノは誰でも好きなものなんですよね。
でも、よく考えればこれって現代が舞台なんですよね?因習が蔓延る名門の家が中心のせいか、読んでいて時々時代を忘れそうになりました。イラストも場所も和風ですし、何より言葉そのものが古めかしい時もあるので本気で昭和初期とか大正ぐらいの設定の物語を読んでいるような気分になりました。途中で出てくるPCとかカラーといった単語で「あ、現代なんだった」と思い出す事を繰り返してしまった程です。
先に王道と書いていますので、大体の流れは未読の方も想像がつくと思います。身代わりになった水晶と人の気持ちが理解できない当主の恋愛ストーリーは、やっぱりラスト近辺までゴタゴタしてます。特に冷血で容赦ないと言われる当主の誉に関しては、お約束のように事業での恨みから暴漢に襲われて大怪我を負ったりも。勿論、それがきっかけとなり二人がちゃんとした形におさまるという流れもはずしてありません。
何故こうもしつこく王道・定番と書くかと言うと、目新しいものや新鮮さを求める人には合わないかもしれないからです。それほどこの作品は王道なんです。でも、だからこそ古き良き・・・といった美点もあるわけで。そういう部分を楽しめる方でないと物足りないと思ってしまうかもしれません。私個人はとても楽しかったんですけどね。
身代わりだった水晶が驚くほどポジティブな性格だった事が一番の幸いなのかもしれません。女装させられ花嫁となった挙句、己の戸籍は既に無くなってしまっている。しかも同じ男に抱かれるなんて冗談じゃあないですよね。しかもそれが自分達を見捨てた父親の策略によるものなんだから怒りも倍増です。でも、水晶は育ててくれた母親の性格を受け継いだのか、性格がとても前向きで暖かい。誉が受けた少年時代の心身の傷を癒せたのもその性格が一番の理由でしょう。それが原因で人の気持ちを理解できない誉を可哀相だという気持ちだけでなく、そこに愛しさという愛情を見出してしまったのも水晶ならば不思議でも何でもない流れです。
身代わりだった側が支配者の本当の姿を知る事により心を開いていくという展開はよくありますが、今回は水晶自身の発する言葉が高レベルだった。読み手の感情を動かせるレベルではあったと思う。それを発する人間が水晶であるという部分に不自然さや隙間を感じないから自然と夢中になってしまう。特に終盤辺りの水晶のセリフは拍手ものでした。こう言ってはなんですが、花嫁役の水晶が誰よりも男前で格好良かったです(笑)
水晶は酷い事をされても、同姓であっても、それでも誉という人間が辿ってきた人生の悲しさと孤独が全ての原因だと知ってしまった。一欠片もの愛情すら得た事がないという事実を思い知ってしまった。そしてそれが引き鉄だったかはわからないけど、理屈でもないし言葉で説明すら出来ない衝動を自覚した。
上手くまとまりませんが、誉にはそれだけでも良かったのかもしれません。同情だけではない、その上にある大きな愛情とも呼べる情けさえあれば良かったのかも。誉はそれを慈悲と呼んでいますが、実際のところ彼の心中を察するにはとてもピッタリの言葉だったように思います。
展開に無理はないですし、何より文章に気合が入っていらっしゃる分、今迄読んだ雪代作品の中では今回が一番楽しめました。この作品のサイドストーリーや番外編なんてあったらとても楽しそうです。実は脇キャラも魅力的な人物が揃っているので、そんな脇キャラから見た有栖川家当主夫妻の様子なんてものも知りたいところ。個人的お気に入りだった女中頭視点のストーリーなんて読んでみたいですね。

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ハッカさま、初めまして。
水晶の、どんなに辛い状況に置かれても明るさを失わない性格が好きです。
誉とのラブシーンはちょっとひきましたが、それは人に虐げられた過去があるから、素直に愛情を表現できないせいなんだなと思いました。
誉の心の傷は、水晶との結婚生活によって癒されるでしょうね。